弊社のお客様が、自分で帯を洗って大失敗されたのですが、
「これを他の方にも見せたら役に立つのではないか」と仰られて その帯をお貸しくださいました。
そこで、他にも帯を加えて「縫製は解かずにそのまま」「自宅で出来る洗い方」で洗ってみた結果を4つ ご用意しました。
お役に立てれば嬉しいです。
帯を洗った4つの例
明らかに危険すぎる帯
冒頭で述べた弊社のお客様から提供していただいた帯です。
洗った事により特に酷くなった部分はこんな感じです。
この帯に用いられた洗い方
以下は、お客様からの説明文です。
お風呂のバスタブに水を溜めて、ぬるま湯にしてそのまま帯を丸ごと入れ、水にさらす程度に軽くゆすりました。
そしてタライに綺麗な水をためて数回ゆすぎました。
そのままバスタオルに乗せて軽くたたき、物干し竿で、陰干しし、夜には取り込んで、日当たりのある場所で陰干しをさらに2日ほど。
帯に手ぬぐいをかけてスチームでアイロンがけ。胴裏を上下にゆっくりプレスしました。
今までになかったきついしわが入っていたので裏地の一箇所だけは直にアイロンをかけました。かなりテカっています。
その他の部分は丁寧に手ぬぐいをひいてゆっくりプレスしました。
洗剤は使っておらず(水にさらす時間が増えるため)、洗濯機の脱水も使っていません。
途中の写真を撮れば良かったのですが(数枚撮っているのは洗濯前と後を比較したかったからです)、それどころでなく、写真がないのが悔やまれます。
説明文と一緒に頂いた写真。洗ってる最中にタライが割れたそうです。
臨場感ありますね
特に目立つダメージ箇所
1.「帯地の裏にわたっている糸」が縮んでキツいシワになってしまった。
赤丸部分にあるようなシワが帯全体に見られます。
矢印の間の糸が縮んでます。
ちなみに上の写真とは別な帯ですが、「帯地の裏にわたっている糸」というのは こういうものです。
洗っていない新品の帯でも 織り上がった段階で裏の糸がすでにピンピンに張っていてシワを作ってしまう事は珍しくないので、それを水につけてしまうと一定確率でこうなります。
「織りの帯は洗いが難しい」といわれる理由の一つです。
2.アイロンにより生地がテカってしまった。
知識のない方は、アイロン直当てはやめておいた方がいいです。
当て布をすれば万事OKみたいに言われる方がおられますが、当て布はそんな無敵のアイテムではないです。
どうしてもこの帯のシワを伸ばしたい場合は、誰かの手を借りて帯をピンと引っ張った状態で蒸気だけで伸ばした方が良いです。
ただこれも蒸気で激しく変化する帯の場合は大変な事になります。
僕らは専用の機材があるので楽なんですけど、自宅で同じ事をやろうと思うと大変っすね・・・
追記
この帯をお借りしたお客様から ブログを読んで「こんなものじゃない!まだまだ足りない!」という気迫あるメールを頂きました。以下はその抜粋です。
- (帯芯と帯布がずれたのか)帯のタレ先がピシッと合わない、中心から型崩れを起こしているのです。
ここも新たな発見でした。帯芯と帯布の素材が違うことが特にこういったことになるのだと思いました。
タレ先のあのツッパリ感、まるみ、もはやお前は帯じゃない、お前はすでにしんでいる状態だったのです(引き伸ばしてくださって息を吹き返しましたが) - 次は腰が抜けるのです。帯の張りがなくなりしっかり締めても緩むのです。
母は近くの瀬戸内海にフノリを取りに行って溶かして糊付けしろなどと言うのですが、フノリなど(どんなに愛媛のど田舎の瀬戸内海といっても)、今はフノリなどないのです。
私のように、この程度ならいけそう!と清水の舞台から飛び降りることのないよう、帯を洗おうとする皆さまには肝に銘じてほしいという思いでいっぱいです。
わりと大丈夫そうな帯
弊社のスタッフがリサイクル着物屋さんで購入したのは良いが、あまりに臭すぎて着用不可能だったので、何度も何度も何度も何度も何度も洗剤(エマール)を大量投入し水につけて洗ったそうです。
かなり強気の姿勢で攻めたおかげで臭いはとれています。
八寸袋名古屋帯です。
洗面台にためた水がコーヒーのように真っ黒になったよ
特に目立つダメージ箇所
縫製部分周辺のシワ
帯芯もなく、表も裏(お太鼓の裏側)も同質の生地であり、問題なく洗えそうに思える帯ですが、小じわが出来てしまってます。
プレス加工をしてみたのですが伸びませんでした。縫製を解いてプレスすれば直りますが、それだと自宅で洗ってる意味がありませんよね。
でも、お太鼓結びでなければ目立たないシワなので この帯の洗濯は成功したといって良いかもしれません。
実験用に作ったミニチュア帯
「実験データは前提条件が定かでないと意味がない」と思い立って作った帯のミニチュア。
幅は半幅帯と同じぐらい。長さは88㎝です。
ミニチュア帯のデータ
- 帯芯が中に入っています。
- 片側は帯も帯芯もキツめに縫製してあり、もう片側は帯も帯芯も縫製していません。(袋帯用の帯地を二つ折りにして作ってます。)
- 帯(西陣織の正絹)も帯芯(綿)も縫製糸(絹)も私が長年使っていてよくよく知っている物体です。
洗った方法
新品なので別に洗う必要がなく、洗面台に水をためて30分ほど つけておきました。
特に目立つダメージ箇所
帯が曲がった。
こんなに短いミニチュア帯でここまで歪になるとは思いませんでした。
写真では見えにくいですが、絹(帯)と綿(帯芯)の縮み具合が大きく異なる為に縫製した側にのみキツいシワが出来ています。
※丁寧な帯の仕立てでは、帯芯は外れないけれども 動きをもたせるように縫うので このようなシワは出来にくいです。(洗っても大丈夫という意味ではないです)
洗う前と洗った後の寸法の差
巾は16㎝→16㎝で変わらず。
長さはよく縮んだ側の方で88㎝→84㎝
強めのプレス加工により かなり綺麗になりましたが、小ジワが少し残りました。
ポリエステルの帯
この帯はどこぞかに忘れてきて もう手元にないので写真はこんなんしかありません。(別記事からの使いまわし)
試すまでもなく適当に洗っても問題ないであろうポリエステルの帯です。
それに加えて この帯は織機から出てきた時点で輪っかに織られており、縫製いらず、仕立て屋いらずの帯なのです。
たしか900円ぐらいで買いました。
くそぅ・・・全国の仕立て屋を抹殺する気か、許さん!
なぜこの帯に詳しいかというと工場見学の際に丁寧に解説して頂いたからです。
ありがとうございました(=^ω^=)
洗った方法
特に目立つダメージ箇所
なし。
渓流で川に流され水中でグルグル回ったりしましたが、何の問題もなかったので洗濯機で洗っても大丈夫でしょう。
結局、自宅で帯を洗うにはどうすれば良いのか?
わかりません
私も2本ほど、ダメモトで帯芯入りの帯を洗ったことがあります。つけ置きから洗濯機のオシャレ着洗いで脱水1分。
1本は去年、新品で購入した綿の半幅帯(新品なのに恐ろしいほど臭くて使えなかった)
もう1本は知人にいただいた古い綿の九寸名古屋帯(古くて短くて、、、柄は好みだけどちょっと汚い)
どちらも縮んだようで縫製部分周辺にシワができて、ミニチュア帯のように曲がってしまいました。
半幅帯はぐいぐい引っ張って多少は真っ直ぐになりましたが、帯芯が表地よりも長くて余っているようで中で変にボコボコと波打っていました。
どちらも使えないわけではありません(自宅内で締める分にはとりあえず使えるだろう)が、結局、そっと廃棄処分にしました。
化繊でもレーヨン(古い八寸献上柄でレーヨンの帯を持っています)だと水で洗えないので、芯が入ってなくて絶対にポリ100%だと分かっている身元が確かな帯以外は洗わない方が良いと確信しています。私は正絹ではなく綿かつ捨てても良い帯だから洗ってみましたが、それ以降は「とりあえず使う気がある帯はみつやまへGO!」としています。
有用な情報をありがとうございます。
うちのスタッフ含め 皆さん、果敢に挑戦されてるんですね(笑)
この記事は、お客様にキッカケを頂いて書いたものですが、
洗えるか洗えないかは別にして、帯に色々な負荷をかける実験は意外な発見があるので今後も継続したいと思っています。
実験的に色々な和装品を水洗いしています。洗っても大丈夫な帯は正絹の博多の八寸帯でした。外に干して落ちてしまったので、結局3回洗いました。数回着用した後、いくつかのトートバッグに再生、素敵なバッグが出来上がりました。博多帯は凄いです。
着物は基本水に強いです。夫の実家にあった古い着物を水洗いしましたが、さっぱりしてアイロンいらず、ガウンとして使用している物もあります。お召は聞いてはいましたが、2/3くらいに見事に縮みました。これは洋服にリフォーム。
新しい長襦袢は水通ししてから仕立て、水洗いしてます。汗汚れにドライクリーニングは邪道。費用も掛かり過ぎます。帯から脱線しました。
博多帯は洗いに限らず、万事にトラブルが少ない印象がありますね。
対して 西陣織は素材も多様で織りも複雑なものが多いこともあり 私などは試すまでもなく無理と決めつけてしまう帯が多いです。
着物は縫製を解けばリスクなく洗えますけど、仕立て代がお高いですからねぇ
よく弊社ブログなどでモデルをやってくださる某氏は「私は汗をかかないので洗う必要がない」と仰ってます。凄いです(笑)